日本音楽即興学会(JASMIM)2009大会報告



'Graphic notation: Warashibe methods (exchanging music)'


若尾久美

WAKAO Kumi

(音楽家)


【概要(大会抄録記載)】


音楽は口承あるいは記譜によって受け継がれて来た。その受け継がれ方は程度の差こそあるものの、基本的に再現性の厳密さを要求している。しかしここでは、受け継がれ方をあいまい、かつ変容することを許容、むしろ推奨した音楽の伝達方法を試みる。そのため5線紙による伝達方法を離れ、図形などによる記譜のあいまい性を積極的に取り入れる。ワークショップでは、参加者は演奏されることを前提に図形楽譜を描き、それを交換し、演奏する。このことによって現れる楽譜とそれによって出現する音楽の間にある変換を体験する。具体的には、楽譜はそのまま描いた作者が演奏するのではなく参加者同士で交換して、のちに演奏を試みる。この交換の行為を、ここでは日本の昔話し「わらしべ長者」にちなんで「わらしべ法」と呼ぶ。楽譜を交換し、音楽に変換し、それを繰り返していくことによって新たな異なった音楽を作り出すであろうWSである。この「変換/あるいは交換」とはフリードリヒ・キットラーの著作『グラモフォン フィルム タイプライター 』のキーワードでもある。ここでは、メディアの変換がもたらす意識の変容を指す言葉として用いている。


「図形楽譜」はグラフィック・ノーテーションとも呼ばれ、ジョン・ケージが1969年編集した『NOTATIONS』が知られる。その後、2009年4月にはそれを引き継ぐ形で『NOTATIONS21』が発行された(編者:テレーザ・ザウアー/Theresa Sauer)。このように図形楽譜はますます浸透しつつあるが、楽譜とその演奏結果がもたらす音楽についての考察は少ない。それは図形楽譜の多様性によると思われるが、ここではそれについて検討はせずに広く受け止め、ただ音楽を受け継ぐ道具として扱う。つまり、楽譜の仲介なしに音が突然に立ち現れる即興演奏ではなく、音の出現の前に音楽ではないメディアが介入することによって、音楽に音楽以外の視点を取り入れ、混乱を引き起こそうとする。音楽が限定されない状況を作り出すための手段でもある。そして図形楽譜を交換することによって、共通の解釈を探るのではなく、あくまで雑多で多様な可能性を引き出そうとする。





【報告】





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