日本音楽即興学会(JASMIM)2011大会報告


【発表者】
柳沢英輔(Eisuke YANAGISAWA)
青山学院大学総合文化政策学部


【要旨(大会抄録記載)】
本発表では、2006年から2011年にかけて断続的に行ったフィールド調査に基づき、ベトナム中部高原コントゥム省、ジャライ省に居住する山岳少数民族のゴング演奏・調律の特徴を考察する。


ベトナム中部高原では、山岳少数民族ごとに異なる様式のゴング(銅鑼)セットが受け継がれてきた。ゴングには精霊(Yang Cheng)が宿っていると考えられ、現在も重要な儀礼・祭礼の際には必ず演奏される。またゴングは、威信財・交換財としても用いられ、古く大きく音の良いゴングは、1セットで水牛数十頭と交換されるなど大きな価値がある。ベトナム中部高原の少数民族は、沿岸部のキン族(多数派のベトナム人)が製造するゴングや国境を接するラオス、カンボジアからゴングを購入し、調律師が民族ごとに異なる音階に調律して演奏に使用している。このようなゴングの製造・流通・調律・所有・演奏などの実践の総体をゴング文化と称する。


伝統的なゴング演奏では、12人~20人位の奏者によりアンサンブルが形成されるが、各奏者はそれぞれ異なる音高に調律された一枚のゴングを、異なるタイミングで入れ子状に奏する(打つ)。その結果として、旋律やリズムのようなものが生まれる。東南アジア他地域のゴングアンサンブルにはあまり見られない特徴として、一人の奏者が一枚のゴングのみを演奏する点、突起ゴングと平ゴングを同時に演奏に用いる点などが挙げられる。また演奏者の身体がゴングと接触することにより生まれる打音と消音のリズミカルな反復のプロセス、その反復の中に微妙な差異を与える即興性、各奏者が他の奏者が出す音を聴いて音を出すという音の交換、ゴングの響きと演奏者の身体の共振にこそ演奏の本質があると考える。


またゴング調律には、微妙な音の違いを聞きとる鋭敏な聴覚と、各ゴングを、目的の音高、音色へと変化させる熟練した「わざ=身体の使い方」が必要である。ゴングは調律されていなければ、演奏に使用することができないため、価値がない。またゴングの価値の高低を決める要因に、「音の良さ」があるとされる。つまり、ゴング調律師は、自らの聴覚と身体を連動させることで、ゴングの価値を創造し、ゴング文化の根幹を支えているのである。


最後に、フィールド調査で撮影した映像をもとに制作した民族誌映像作品「ベトナム中部高原のゴング文化」(2008年制作、18分)を上映する。本作品は、前半部でゴング演奏が重要な役割を担う儀礼としてジャライ族の墓地放棄祭をとりあげ、後半部では、ゴング文化の根幹を支えるゴング調律師のわざに焦点を当て制作した。


【報告】







前のページに戻る