日本音楽即興学会 JASMIM

The Japanese Association for the Study of Musical IMprovisation
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ニュースレター

 新井陽子さんへインタビュー(後半)

記載:2010年12月19日

JASMIMレター0020(2010.12.19)
[新井陽子さんへインタビュー(後半)]
インタビュアー・編集:若尾久美

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JASMIMレター0020(2010.12.19)
[新井陽子さんへインタビュー(後半)]
インタビュアー・編集:若尾久美
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———–(インタビュアー) 大変っていうのは?

(新井陽子) 経済的に。それはまあ日本と同じで、音楽だけでは食べていくのが大変な状況。ジョン・ラッセルさんは、音楽の他にルーティーンの仕事をしながら、それで自分が貯めたお金でコンサートをやる、っていうふうにしている。

———-ロンドンは助成とかサポートとかのシステムはないのですかね?

あるんでしょうけど、最近は不況で厳しくなってきているらしいです。例えばフランスみたいに生活を保障するようなのは簡単には取れないらしいです、ロンドンでは。大きなフェスティバルで人を呼ばなきゃいけないようなときは、なるべく呼びかけた人に自分の国で助成金をとってもらって、それで交通費を捻出してもらう。あとはこっちでご飯食べたり、泊めてあげたり、そういったお金は出して。コンサートのパンフレット作ったりは、自分のお金でやってる。場所を借りるお金も、毎回払っている。

———-そういう中で、毎月コンサート開いてしかもゲストを呼んだりしながら演奏しているっていうのは、すごくぎりぎりのところでやっているんですね。

ええ、だいぶそれでお金をすっちゃった・・・みたいなこと言ってました。

———-そういう人たちとぶつかって一緒に演奏するっていうことが、イメージだけじゃなくてひしひしと演奏にも跳ね返る?

そうですね、みんなあちこち国を移動しながら演奏するとなると、いったいどうしてるのかな、と思います。そういう大変さもありながら自分のやることを追求して、すごいエネルギーだと思いましたね。ロンドンだけではなくパリでも・・・今年の春にフレッド・マーティっていうコントラバスの人が日本に来て、一緒に演奏する機会があったんです。それで、彼にコンタクトをとってパリに行ったんです。彼も日本へはパリで助成をもらってきたみたいですけど、 パリでどんな生活をしているかっていうと・・・要するに、ストリートミュージシャンの証明書を市からもらってるんですね。カードを持っていて。で、そのカードを持って毎日のようにどっかの駅に立って、そこで演奏して、日銭を稼いでいる。

———-そのカードを持っていると演奏許可という意味?

そうですね。

———-「アーティストですよ」っていう意味のカード?

そうですね、その日銭が主な収入源。15人とかのオーケストラでやることもあるらしいですよ(笑)。

———-(笑)すごいですね、駅が満員になるね。

そんなにたくさんでやってお金になるの?って聞いたら「うん、大体なるよ。少ないときもあるけどね」って言ってました。

———-で、そういう方とパリではコンサートされて?

2回やったんですけど、ひとつはバーみたいなところで、もうひとつはレストラン。どちらも地下にライブのスペースがあって。

———-日本よりミュージシャンの置かれる立場は良いように思っていたんですが。それじゃ、あまり変わらなくなった?

やはり経済的には世界的にそのようですね。オランダ、フランス辺りはまだ良いようですが。でも社会的な意味合いや意識としては、彼やその周辺の友達とかを見ていると、アーティストとしてのプライドがはっきりしていると思います。それが色々な意味において良かったり悪かったりすることはあると思いますが。

———-そういうった方々とのおつきあいを通して、これからどういうふうにやって行こうとか、そういうことを考えたりされますか?

ええ、もう結構イイトシですから、やっぱり考えるんですけど―最終的には自分がどうしたいのか、っていうことだと思うんです。さっきの話しに続けるような感じでいうと、自分が即興をやってきたということは、そうやって即興をやることで、海外に行ったりいろんな人に出会ったり・・・自分が思ってもみない人と出会えたり、そういういろんな人と接することで、なんだろ、自分をどんどん違う世界へ導いて行く、それは自分にとって面白いことだなあと思っています。そういう意味では、「音楽を演奏する」というのとはまた違うことなのかな、と思うんです。スタイルのある音楽をやるのも色々な人にとって意味のあることだと思うんですけれど、即興っていうのは、それをもう一歩超えたところでものごとを捉えることができるっていう意味で、ちょっと他の音楽とは違う位置にある「ことがら」なんだな、と思っています。他の世界とも、結びついていけるような・・・言ってしまえば、即興っていうのを音楽と呼んでいいのか、というところまでいけるような。

———-音楽と呼んでいいのか、とはどういう意味なんですか?

なにを音楽というのか、世界を問うこと、というのかしらね。そういう媒体になるのかなあ、と。例えば、「音遊びの会」のライブとかにしても「あれは音楽なのか?」とか「演奏って言えるのだろうか?」という人もいると思う。私は、それを何と呼ぼうが何でもよくて、ただ面白い音が出て来るな、こういうことができるのは「即興」だからなのかな、と思うんですけれど。そういうこと、ものごとをどういうふうに価値判断するのか、いろいろ考えられるってい うのかしら、即興ってそういうところまで連れて行けるものなんだなと、思っています。

———-ここで話し変わりますが、来年度に、この学会が音楽即興のコンテストをやるということ―学会では「音楽即興」という言葉を使っていますがーこのコンテストについて新井さんのご意見やアイデアを聞かせていただきたいのですが。

ふふふ、どう答えたらいいのかよくわかんないんですけど・・・一つ考えられることは、やることで何が見えてくるのか、ということに期待する、ということかな。今はすでに60年代、70年代を経てきて、ジャズの即興さえ知らない若者がたくさんいる中で、じゃあ今ある即興ってなんなのだろう、なんでこういうことをワシらは必要としているんだろうか、と問い直す場をつくる。そしてそこからどんなものが出てくるか見てみる。そういう意味ではすごく面白いと思う。ただ自分が参加するか、というとどうなんだろう。私は、今は自分の思っていることをどうやって具体的にやるか、ということにエネルギーが向いているので、何かを検証するところまで行かないんですけれど。

———-今、審査を審査するというような案が出ています。

そうですね。

———-まだなにも始まっていないうちから、はじめから審査を審査すると言っている。このあたりはどう思われますか?

はじめから審査を審査する?(笑)

———-審査員が必要か、というところからはじまって、審査で例えば入選とかあるとしたら、それを審査した人の言葉で話してもらう。その基準をさらに審査するという。

小学校の学園祭のように貼り出しちゃう? 言葉を並べて。この人はなにを考えてどうしてこれがいいと思ったのか、とか。あと、言われたことに対して演奏した人からも意見を聞く。インタラクティブにやる、そういうのが面白いかもしれないですね。

———-なるほど。お互いにその場で話し合う、という形ね。「どこが気に入らないんですか?」とか。

「なに考えてるんだよ!」とかね(笑)。

———-(笑)「なに考えてるんだよ」って言える場にする。

結局そうしないと面白くない。善し悪しを決めることが目的になっちゃうとふつうのコンクールと何も変わらないし。

———-いわゆるコンクールと同じは面白くない。

賞を取ったことで箔がつく、みたいに結局なってしまうのは。

———-この学会がコンテストをやることの意味は、そこでインタラクティブなやりとりに持っていくことしかない。じゃあ、これをどう実現化するか、というところをお聞きしたいです。

まじめに話し合って、それで最終的に「なにバカみたいなことやってるの?」というようなことができるといいかもしれないですね、変な言い方ですけど。

即興のコンテストをやる、ということでみんなから意見が出ていますけど、たとえそれが外から見てすごいばかばかしいことであっても、皆で話し合ってやり方を決めて、普通にはやらないことをホントにやってしまう、そういうふうになるといいかもしれないです。・・・言葉で言うとこんな感じなんですけど。実際にコンテストをやるってことはいろんな即興が出てくる、いろんな即興を一つの場に並べてみる機会ができるってことですよね。ふつうのコンテストって、比べられるもの同士で見せ合いますから。比べられないものを一堂に持って来て、皆でうーん、どう順位を決めよう、って真剣に考えてる・・・(笑)そういうことをやることが出来る場をつくるというのは面白いですね。

———-なるほど、面白いですね。これでたくさんお聞きできました。ありがとうございました。

けっこう長かったですね。ネコアタマなので言葉をつなぐのが大変でした(笑)。

———-(笑)同じくです。どうもお疲れさまでした。

 

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