日本音楽即興学会 JASMIM

The Japanese Association for the Study of Musical IMprovisation
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ニュースレター

 寺内大輔さんにインタビュー#1/2

記載:2011年2月23日

JASMIMレター0035(2011.02.23)
[寺内大輔さんにインタビュー#1/2]
インタビュアー・編集:若尾久美
インタビュー日付:2011.02.06

今回は、昨年のアサヒ・アートスクエア(AAS)で2010年サポートアーティストに選出された寺内大輔さんにお話をうかがいました。

本文

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JASMIMレター0035(2011.02.23)
[寺内大輔さんにインタビュー#1/2]
インタビュアー・編集:若尾久美
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インタビュー日付:2011.02.06

今回は、昨年のアサヒ・アートスクエア(AAS)で2010年サポートアーティストに選出された寺内大輔さんにお話をうかがいました。

寺内大輔さんのホームページ

———–(インタビュアー) インフルエンザにかかられたとか、大変でしたね。

(寺内大輔) はい、2、3日ヒーヒー言ってました。

———-治られたばかりですいませんが、よろしくお願いします。昨年「アサヒ・アートスクエア2010」のサポートアーティストに選ばれましたね。これは、どんな流れだったんでしょうか?
(アサヒ・アートスクエア)

去年の3月くらいに応募しました。一次選考を経て、4月にヒアリング、それから選考、決定です。このあと夏から冬にかけてプロジェクトが進んでいきまして、成果報告会が12月だったんです。これで私は終わりました。ちなみに、今年度は岩渕貞太(ダンサー/振付家)さんが選ばれました。私のときはサポート期間が半年(夏から冬)だったのですが、今年度からは一年間になりました。

———-このアサヒ・アートスクエア(以下「AAS」と略記)とはどんな企画ですか?

ちょっと面白い趣旨です。サポート費というのが支給されて、そのお金もらってそのお金を使ってなんかやるわけですが、いわゆる「作品できました」、「展覧会(またはコンサート)します」、っていうんじゃない(いや、それでもいいんだけど)。あくまでも、何かやることによって、アーティストが自分の成長のために考える機会を持つというものなんです。だから、12月に開かれた成果報告会にしても、その「成果」は、柔軟に解釈できるわけです。

———-面白いですね。そこで寺内さん、ただお一人がサポートアーティストとして選ばれたわけですが、選考理由はどうだったんでしょうか?

選考理由はよくわかりません。

———-初応募ですか?

はい。この企画じたい、第一回だったんです。90組ぐらい応募があったと聞きました。

———-どういうポイントがあったんでしょうか?この企画と寺内さんの意図が一致したのは。

そもそも募集は、音楽家を募集するというのではなく、どんなジャンルのアーティストでも対象になっていました。おそらく音楽系の人は少ないだろうなと思って。そういうことを考えていた時、自分の作品の中に、ちょうど音楽と美術の分野の間に位置するようなものがあったのを思い出して、案外これでいけるんじゃないかと思いました。それで、その作品のプロジェクトを立案して応募してみたんです。

———-スコアスクローラーのことですね。

そうです。(スコアスクローラー)

———-スコアスクローラーというのは実際どんなものですか?

黒い箱になっています。大きさは両手で抱えられるぐらいです。ハンドルがついていまして、くるくる回すと、箱の中に仕込んでいるロール紙がぐるぐるまわる仕組みになっています。箱の中のロール紙が見える窓がいくつもついているんですが、回転するとその窓にうつるものが変化していきます。そういう仕組みです。ごく簡単に申し上げると。ロール紙には最初5線譜の断片みたいなものを使っていました。それをあるルールに基づいて演奏する。ちょっと即興的な要素はあるけれど、ルールもばっちり決まっているし、割とやらなきゃいけないことは決まっているので、一応作品という形です(即興演奏ではない)。それを2006年に作りました。言葉で説明するのは難しいので、ぜひウェブサイトをご覧ください。

———-アムステルダムに留学されていた時の卒業作品ですか?

いえ、卒業はしていないんですよ。期末の課題のために作りました。

———-その学校は美術系ですか?

リートフェルトアートアカデミーというところです。

美術の学校ですが、僕がいたのは「オーディオビジュアル・デパートメント」というところで、音楽をやってる人も結構いました。

———-そのスコアスクローラーを使ったプロジェクトにAASが興味を示したということですね。

そうですね。

———-それで、昨年は具体的にどういうことされたんですか?

最初、僕はもらったお金でーサポート費といいますがー作品発表をやろうと思っていたんです。ところがスタッフの方と話していると一概にそういう趣旨じゃないから発表とかは別にしなくていいんだよ、アーティストが何かやって、本人に何か得るものがあればそれでいいんだよ、ということでした。いろんな分野のアーティストのかたと共同でなんか新作を考えていくのはどうか、という提案もあって、それはよさそうだなと思ったんです。だから展覧会的なことをやるのを止めて・・・新井英夫さん(ダンス・体奏)、浅野耕一郎さん(ゲームデザイナー)、富士栄秀也さん(ボイスパフォーマー)、安野太郎さん(作曲家)、坂倉杏之介さん(「芝の家」主宰)総勢5人に、コラボレーターとして参加をお願いし、一緒に作品を作ることにしました。僕を入れて6人で、夏に2回集まって、このスコアスクローラーを使ってどんな遊びが出来るかな、というようなことを話していたんです。そのときの様子が、アサヒ・アートスクエアのウェブサイトにも少し載っています。(http://asahiartsquare.org/?p=29)

夏に話し合ったあと11月に試作品を試奏するという会を開きました。共同制作に関わった5人にも来てもらって、意見を出してもらって。その後、12月の成果報告会でも、3作品を実際にやってみました。

———-その作品は話し合って作られた?

あのー、それが今回感じたのは、みんなで作るって難しいんですよね。コラボレーターのみなさんはアイデアマンですから、いろんなおもしろいアイデアや意見を言ってくれる。そういうアイデアは、聞いてるときはいいねえと思うんですけど、持ち帰ってさあ作品にしてみようとすると、なかなかそのまま使えなかったり、使えたとしてもこれは僕の作品じゃないな、という気持ちになってくる。それで、なんかそういう民主的にみんなの意見をまとめて作品をつくるのはやめよう、ということに自然になっていきました。それで最終的にはほとんど僕ひとりで作品を作ったんです。

———-3つとも?

そうです。でも、じゃあ6人の話し合いは無駄だったのかというとそんなことはなくて、いい影響はいろいろあった。

———-どんな作品だったんですか?

えっと、3作品のうち1作品は、4人のギターのための作品(タイトルは「流氷」)です。これは、スコアスクローラー自体をタブ譜のように見立てて演奏します。スコアスクローラーにはたくさんの小さな窓がついているんですが、以前の作品では、その窓の一つ一つを別々に見るという発想しかなかった。それを、ぜんぶいっぺんに見て、タブ譜のように考えるという発想(このアイデアは、安野さんが提案してくれました)で作りました。

———-ロール紙に書かれたんですね。

ロール紙の書き方を考えることも創作の重要な要素です。例えば、そのギターのための作品の場合、7列あるロール紙の各列に必ず黒いマルと白いマルがいくつずつ書かれてないといけないとか、マルとマルとの間隔は何センチ以上とか決めたのでまあ、誰がやってもそんなに違ったものにはならない。そのルールの設定そのものが作品になります。ルールの縛りがきついかゆるいかは作品によりますが。

もう1作品ご紹介したいと思います。もっとオープンに遊べる「ことばの遊び」ってタイトルの、言葉を使った作品です。これはひらがな一文字だけがいろいろ書いてあって、それである文字が出て来たら、その文字で始まる言葉を歌ったり、喋ったりするんです。

———-しりとりみたいに?

そうですね。「え」がでたら「えどじだい~(歌う)」て言ってもいいし、「えんげき」って言ってもいいし、なにかその場で即興的に思いつくものを。これは集団でやるんですけど、他人が言ってるときに面白いなと思うものは、やりながらもけっこう記憶に残るので、そういう「記憶に残ってしまった言葉」がある時は、なるべく同じ言葉を使おうといルールがあります。いろんな言葉がそこからたち現れるんですけど、なんとなく他のみんなにとって印象深い言葉が生き残っていく、っていうか、そういう言葉じゃないのはすぐに忘れられてすぐ次の言葉に、という状況が起きます。あとしゃべるヴァージョンと、歌うヴァージョンがあるのですが、歌う方が断然面白かったです。「えどじだい~~(歌う)」、「とんかつ~(歌う)」という風に、一個の音で延ばして歌うと、なんか独特のムードが出ます。初めてこれをやった時は、そのムードがおかしくて、一生懸命笑いをこらえながらやってました。ちなみに、音高を指定するバージョンと指定しないバージョン、即興詩人と共演するヴァージョン、演劇的に即興でセリフを入れていくヴァージョンなど、いろいろあるんです。これも参加者によって難易度というか、ルールが変えられます。

この「ことばの遊び」を作った時、演奏会用の作品(合唱曲?)にもなるけど、小学校とかの教室で子供たちが楽しめる作品にもしたい、という気持ちがありました。それで、難易度とか、やる人の状況によって、演奏法が変えられるようにようにしたいと思ったんですよ。で、ルールは何段階かに分かれているし、アレンジがやり易い作品になっていると思います。

あと面白かったのが、発する言葉に「てにをは」をつけるヴァージョンです。「えどじだい」とか「とんかつ」で終わるんじゃなくて、「えどじだいに~」とか「とんかつを~」とか、それがあるのとないのとで言葉の生き生きした感じが全然変わってくる。「なんでもいいから、てにをはをつけよう」、というルールは大変成功したと思います。

———-その3作品は11月に演奏されたんですか?

11月に初めて試演をやって、で、12月8日に報告会でもう一度やりました。

———-さっきの5人の方と一緒に?

5名のコラボレーターの方々だけでなく、試演のために特別にお願いした方も含まれています。

———-最後の報告会はなにかレポートがいるんですか?

提出しないといけないものはなかったですが、報告会は一般公開なのでAASやアサヒビール関係者だけでなく、来てくださったお客さんみんなの前で、経緯や成果を報告しなければなりませんでした。このときは、インタビュー形式で、時々演奏をはさむといった形で報告を行いました。報告会終了後には、ちょっとした打ち上げ(懇親会)もありました(もちろんアサヒビール)。

NL36へ続く


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